―缶の中に、須坂の物語を―
須坂缶デザインに込めた背景と想い
昨年秋、八幡屋礒五郎4店舗目となるイオンモール須坂店がオープンしました。そして今春、須坂店限定デザインの七味缶が登場します。蔵の街並み、竜の伝承、そして桜――。この土地に息づく風景や記憶が、一つの缶の中に丁寧に描き込まれています。
今回お話を伺ったのは、この須坂缶のデザインを手がけたデザイナー。モチーフ選びから試行錯誤の過程、そして完成した今だからこそ語れる想いまで、一缶に込められた「須坂の物語」をお楽しみください。
Designer Profile
柄澤 真(からさわ・まこと)
1965年生まれ。長野市出身。高校を卒業後、社会人経験を経て、長野市内のデザイン事務所でデザインを学ぶ。その後、2007年に八幡屋礒五郎に入社し、長年にわたり七味缶のデザイナーを務める。
モチーフ選びとデザインの工夫
――いよいよ須坂缶が発売になりますね。今回、この缶を作ろうと思ったのはどんなところからなのでしょう。
会社として須坂缶を作成しようと決まった段階で、デザインチームのほうに話が来たんですね。それを聞いて僕の中では、須坂に八幡屋礒五郎が初出店することになるので、"須坂のみなさまへのご挨拶"という位置づけになると解釈してデザインを始めました。
――「初めまして」という意味合いですね。缶のデザインを考え始めた際、思い浮かんだモチーフは何でしたか?
まずは、家族と一緒に行ったことがある須坂動物園が出てきましたね。あと、音楽が好きなので須坂市文化会館メセナホール。好きなアーティストが来たらよく行っています。そして外せないのが臥竜公園の桜ですよね。僕がぱっと思い浮かんだのはその3つです。
――社内メンバーそれぞれが案を出して、蔵の街、竜、桜の3つのモチーフに決定したんですよね。
はい。なかでも僕は、桜に強い思い入れがあります。花は人の気持ちを勇気づけたり、優しくしたりするところがあると思うんですよね。だからこそ、桜という存在には特別な意味を感じています。
あくまで僕のイメージですが、臥竜公園という桜の名所があることで、季節の移ろいを感じられるのではないですかね。桜は咲いている期間は短いものの、そのひとときを楽しみに1年を過ごす――そんな感覚が須坂のみなさまにはあるのではないでしょうか。そう思うと、やはり外せない存在なのかなという気がします。
――素敵な発想ですね。須坂缶デザインにあたって、改めて須坂について調べたことはありますか?
デザインを一緒にするスタッフの中に、須坂出身の方がいまして。その方に、蔵が有名だと教えてもらいました。それで、たまたまネットで見ていたら、須坂の蔵をまとめた本を見つけたんです。「わ、いいものがある!」と思って、すぐに入手しました。
その本に載っている蔵を見ていると、黒い瓦や白い漆喰の壁、石組みといったイメージ通りの外観でありながら、それぞれに意味や工夫があることがわかりました。とても勉強になりましたね。
試行錯誤と完成までの道のり
――ここからは、デザインを制作された過程について伺っていきます。制作過程で特に悩んだ点、何度も調整した部分はありますか?
まずは蔵です。先ほどお話しした本を見ていると、蔵には本当に細かい要素が多かったんですよね。もし蔵を描くのであれば、そうした細かなディテールもできるだけ表現したいと思いました。
ただ、細かいがゆえに、あの小さな八幡屋礒五郎の七味缶の中でどこまで表現できるのかは悩みました。これは今回の缶に限らず、他の缶をデザインするときにもいつも考えることなのですが、どうしても細部まで描き込むことはできません。
限られた面積の中で、しっかりと絵として成立させる必要があります。そうすると、本当はもっと細かく描き込みたくても、それができない場面が出てきます。線の足し算引き算には苦労しましたね。
――どの線を採用するか、かなり迷いそうです。
そうなんです。あとは竜のストーリー性をどう表現するかも悩みました。臥竜公園の「臥竜」は"地に伏す竜"という意味なので、空を飛んでいないんですよね。そう考えると、羽を休めているのか、安息の時間を過ごしているのか――竜のイメージも少し変わってきます。
一方で、蔵の街と竜をどう組み合わせるかにも迷いました。地に伏した竜と蔵だと、どちらも地面にあるため、構成が難しかったんです。
そんな中で、須坂市内の高校生が文化祭で竜を作っているという話を聞きました。写真を見せてもらうと、その竜は地に伏せているのではなく、天を仰いでいたんですね。おそらく彼らの中では、竜は空を飛ぶ存在としても捉えられているのだと思います。
その姿を見たときに、蔵の街並みとうまく組み合わせられるのではないかと感じました。
――ストーリー性も大切にされているんですね。他に悩んだ部分はありますか?
試刷(しずり)といって、試し塗りの缶(サンプル)が上がってくるんですね。その時点では、ほぼ自分の意図した通りに仕上がっていたと思います。ただ、どこか100%ではないなという、漠然とした引っかかりがありました。
それを九代目(代表)に見せたところ、「少し空が暗くて、竜が怖く見えてしまう」という指摘をいただきました。その一言で、はっとしたんです。
奥行きを出すために、あえて空にメタリックな質感を持たせていたのですが、その影響で全体の印象が暗くなっていたんですよね。九代目の言葉は、まさに自分が感じていた違和感に光を当ててくれました。
竜の印象は、背景の色によって大きく変わるのだと気づきました。暗い空の中ではどこか不吉で怖い存在に見えてしまう。一方で、明るく晴れた空にすると、いいことが起こりそうな、竜本来の吉祥のイメージに変わる。そうした違いを強く実感しましたね。
――改めて見ると、修正前と後では竜の印象が違いますね。
ですよね。晴れた空にいる竜のほうがポジティブなイメージになるので、修正を重ねました。
――変更点がいろいろと出る中で、デザインがこれだ! と決まったタイミングはいつでしたか?
デザインの構成は、最初にサムネイルといってラフスケッチを描いて決めていきます。今回も高校の文化祭で作られる竜をモチーフにしたのですが、あの竜のジグザグとした形をそのまま入れるのは、画面の制約上難しい部分がありました。
そこで、ジグザグになっていない写真をもとに、頭・胴体・しっぽを分けてコラージュする形で構成していきました。それを蔵の街の中に配置する構成は、サムネイルの段階でほぼ固まっていたんですよね。
また、中央に八幡屋礒五郎の七味の商標を置き、そこから街並みが広がっていくイメージも、この時点で決まっていて、結果的にその構成を軸にデザインを進めました。
こうして振り返ると、サムネイルの段階で全体の方向性が決まっていたことに改めて気づきます。サムネイルの重要性は、何度経験しても再認識させられますね。
完成した須坂缶への想い
――いよいよ須坂缶が完成したとき、どんな達成感がありましたか?
毎回そうなんですが、達成感というのはあまりないんです。自分がネガティブな性格なのかもしれませんが、まず反省点が先に出てきます。その反省点を補ってくれるのは、きっとデザインした商品を手に取ってくださるお客様だと思っています。僕の達成感は、商品を使ってくださるみなさんに託したいという気持ちがあります。
僕らデザイナーは、お店や営業のスタッフと違って、お客様と直接接する機会がほとんどありません。だからこそ、商品がみなさんの手元に届いて初めて、僕たちの立ち位置が決まるのだと思います。各ご家庭の食卓に七味缶が並んだとき、「どんな会話が生まれているのだろう」と、そんなことに思いをはせながら、完成した缶を眺めています。
今回この記事を読んでくださっている方には、デザイナーがこうしたさまざまな想いを持ちながら制作に向き合っているということを、少しでも感じていただけたら嬉しいです。
――すごく伝わってきます。そんな想いがこもった今回の須坂缶ですが、手に取る方にどんな風に楽しんでもらいたいですか?
僕が思うに、七味缶のステージがあるとしたら、それはみなさんの食卓の上だと思っています。そこにはさまざまなシチュエーションがあって、八幡屋礒五郎の七味缶も、その一つひとつの場面に寄り添っているのではないかと感じています。
もし七味缶が話せたとしたら、「こんな会話があったよ」とか「たくさん褒めてもらったよ」とか、あるいは思いがけない出来事に立ち会った話を聞かせてくれるかもしれません。それくらい、食卓の上にはたくさんの物語があると思うんです。
七味缶には定番のものもあれば、イヤーモデルや今回の須坂缶のように、それぞれ異なるテーマや個性があります。ただ、どの缶であっても、行き着く先はみなさんの食卓です。その晴れ舞台に置かれて初めて、その缶としての役割や価値が生まれるのだと思います。
今回の須坂缶も、イオンモール須坂店限定という形にはなりますが、その土地に須坂缶があることで少しほっとしたり、新しい会話が生まれたり、そんな存在になってくれたら嬉しいです。描かれている竜が持つ穏やかさや安らぎのようなものが、みなさんの気持ちにもほんの少しでも届けばいいなと思っています。
――食卓に新しくキャスティングされる須坂缶が、みなさんの気分を盛り上げたり安らぎを与えたりする存在になるといいですね。今回はありがとうございました。
取材・文/八幡屋礒五郎 広報編集部
動画公開中!
商品概要
須坂缶
| 仕様 | 七味唐辛子/缶 14g/化粧箱入り |
| 価格 | 540円(税込) |
| 発売日 | 2026年4月25日(土) |
| 販売場所 | 八幡屋礒五郎 イオンモール須坂店 |
| ※オンラインショップでのお取り扱いはございません 商品情報はこちら |
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